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短時間?安価?容易! 家庭用のアルミニウム箔を使って 低損失な高周波電気配線を作製

2017年09月15日掲載

研究?産学

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概要

 大阪市立大学 大学院工学研究科 電子情報系専攻 重川 直輝(しげかわ なおてる)教授らのグループは、短時間で容易に厚膜の高周波用コプレナ線路※1を作製する手法を開発しました。
 従来のコプレナ線路は蒸着※2、スパッタリング※3、めっき等の手法により基板に金属層を形成することで作製されますが、これらの方法で形成される金属層は最大でも2 μmほどと薄膜のため、高周波の電気信号の減衰が生じることが多く、また、厚膜にするには膨大な作業時間を要するという問題点がありました。
 本研究では表面活性化接合法(SAB法)※4という方法を使って、従来と比べ約10倍となる厚さ17 μmの金属箔(家庭用アルミニウム箔)をサファイア基板に直接貼り付けることで、低損失なコプレナ線路を短時間?安価?容易に作製することに成功しました。SAB法でアルミニウム箔とサファイア基板を貼り付け、高周波用の線路を作製したのは世界初です。これにより、MMIC※5やパワーアンプといった大電力かつ高周波な電気信号を扱う製品を、従来より短時間かつ安価に作製することが期待できます。
本研究成果は平成29年9月19日(火)から22日(金)にかけて開催される国際会議2017 International Conference on Solid State Devices and Materials(SSDM2017)で発表します。

※1 コプレナ線路
周波数の高い電気信号を伝達する線路で、板状誘電体の表面に縞状の導体層を形成した構造をとる。
※2 蒸着
真空中で金属原料を加熱し、蒸発させることで基板の表面に付着させ、金属薄膜を形成すること。
※3 スパッタリング
真空中で金属原料にアルゴンなどの原子線を衝突させ、弾き飛ばされる金属を基板表面に付着させ、金属薄膜を形成すること。
※4 表面活性化接合
真空中で試料表面にアルゴン原子を照射しクリーニング後、常温で圧着することにより、間に何も挟まずに試料同士を貼り合せる手法。
※5 MMIC
モノリシックマイクロ波集積回路のことで、衛星通信や無線LANなどに用いられる。

研究の背景

 日本では第4世代携帯電話サービスのために最高周波数3.6 GHzまでの電波が割り当てられています。今後IoT、第5世代携帯の開発?普及により電波資源の不足が予測され、十~数十GHzという、より高い周波数の電波の利用開拓が求められています。そのためには周波数の高い電気信号を扱うことができる低コストの電子回路?電子部品を開発することが必要です。現在、蒸着等の手法により作製されているコプレナ線路は金属層形成に膨大な作業時間を要するうえ、損失が大きいことが課題となっていました。周波数の高い電気信号を伝送する線路の損失を減らすためには、配線に厚い金属層を使用することが有効です。そのために厚膜を使った伝送線路を低コストで実現する手段が求められていました。

本研究の内容

 表面活性化接合法により家庭用のアルミニウム箔(厚さ17 μm)とサファイア基板を貼り合わせ、ウェットエッチング※6により長さ11 mmのコプレナ線路を試作しました(図1)。従来の手法と品質を比較するため、同じ長さのコプレナ線路を、同じ材料を用いて(アルミニウム層(0.1μm)?サファイア基板)蒸着による手法で作製しました。両者を比較するため、周波数が最大40 GHzの電気信号を伝搬させ、伝搬による減衰を調べた結果、蒸着で作製したコプレナ線路と比べてアルミニウム箔を用いたウェットエッチングで作製したコプレナ線路の損失は非常に小さいことが分かりました(図2)。40 GHzにおける損失はアルミニウム箔コプレナ線路で1.7 dB/cm、対し、蒸着アルミニウムコプレナ線路で13 dB/cmでした。本研究により金属箔の表面活性化接合によって作成された厚膜線路は従来手法のものより低損失であることが明らかとなりました。

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図1 アルミニウム箔の接合により
作製したコプレナ線路


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図2 長さ11mmのコプレナ線路を
伝搬する交流信号の減衰


※6 ウエットエッチング

酸やアルカリなどの液体を使って試料を溶解し除去すること。

期待される効果

 高周波電気信号を扱う電子回路や電子部品、特に、ワイヤレス基地局用のパワーアンプといった高周波かつ大電力を扱う電子回路?部品の性能向上につながると期待されます。

今後の展開について

 金属箔のエッチングの制御性の向上、またサファイア以外の基板を用いたコプレナ線路作製の検討が必要です。これらにより高周波用電子回路、電子部品への表面活性化接合技術の応用開拓を進めます。

特許等について

 本研究で開発されたコプレナ線路に関する技術は特許出願しています(特願2017-162162)。

その他

 本研究で使用した家庭用アルミニウム箔は、東洋アルミニウム株式会社より提供されました。